移行や就労移行などと呼ばれる就労移行支援事業所(以下、移行)という、障害者が就活に向けて訓練をする塾のようなサービスがあります。多くのメンタル疾患者や発達障害者も利用する移行ですが、基本中の基本のことをお伝えしていきます。
移行とは
移行とは、障害者や就活・就労が上手くいかない人たちが、就職や長期継続就労を目指して必要なスキルを身につけるために訓練する場所です。わかりやすくお伝えすると、無料の就活・就労塾といったところです。
障害者手帳がないと利用できないのでは?という誤解がありますが、そのようなことは基本的にはありません。障害者や難病者、65歳未満の者、一般企業への就職を考えている人たちが利用できます。
通所期間
移行は、基本的に2年間の通所ができ最長3年の通所が可能で、2年間の期間内であれば、同時並行ではなく複数の移行の利用も可能です。
つまりA移行に通いながらB移行に通うことはできませんが、A移行に通所したが合わなかったのでA移行を辞めて、その後にB移行に通所することが可能です。ただし、移行を短期間でころころと変えすぎると移行に通所できなくなる恐れがあります。
利用期間
移行を2年間利用後にある程度の期間に就労継続支援事業所への通所ではなく、一般就労した後に退職してしまった場合に、再び移行に通所することが可能な自治体もあれば、移行の利用期間は人生でたった一度の2年間と定めている自治体もあります。
役所でたずねることによりこれらのことや、移行通所の残月数を教えてくれますので、移行の利用を検討しているのであれば必ず確認しておくことです。
利用料金
利用料金は、前年度の本人と配偶者の世帯所得によります。具体的には、生活保護受給世帯や市町村民税非課税世帯は無料で利用できます。収入が概ね600万円以下の市町村民税課税世帯や入所施設利用者などは、負担上限月額が9,300円。これ以外の負担上限月額は37,200円となります。
移行の利用を検討しているのであれば、通所期間と同じく、事前に役所で利用料金がかかるのかかからないのか、かかるのであればいくらなのかを確認しておくことです。ちなみに多くの移行利用者は、無料で利用しています。
入所の流れ
移行に通所する前には、移行で簡単な入所前面談と見学を行い、そして体験利用をすることになります。よほどのことがない限り、これらのことで通所を断られることはありませんが、清潔感や挨拶などの一般常識や社会性、休まずに通所できる体力などは事前に身につけておくべきです。
職歴が無いことや転職回数の多さによって利用ができないようなことはなく、そのような人たちが、就職と長期継続就労を目指して訓練する場が移行なのです。
訓練内容
訓練内容は、パソコンやオフィスソフトのワード・エクセルの基礎から一般レベルまでの習得、応募書類の作成、面接対策、自分の障害の理解などから、軽運動的なことや生活や働くことの基本的な学習、そして実務的な訓練まで色々ありますが、多くの移行の訓練内容は似たり寄ったりといったケースもあります。
そのような中、最近はIT特化型の移行も出始めており、プログラムやフォトショップ、イラストレーターなどのアドビ系ソフトを学べるところもあります。
移行の訓練内容は、就労経験が全くなくスキルも資格もキャリアも何もない人であっても、最終的に就職という移行卒業を目指す訓練をしてくれますが、その反面、それなりの能力がある人にとっては、移行の訓練は退屈に感じてしまうでしょう。
通所中の労働
移行に通所したところで、お金を支払うことはあっても基本的にお金を得ることはありません。なかには対価を得られる訓練もありますが、その金額はわずかな額です。また移行通所中は、自治体にもよりますが労働して収入を得ることを禁止しています。
なぜかというと、就職というゴールを目指して移行に通所するのに、その期間に労働するということは、すでにそれがゴールにあたるからです。
この際の労働とは何を意味しているのかですが、週何日で一日何時間働くことによりそれは労働とみなされるのか、また、たまたま知り合いの仕事を数時間手伝ったことにより日当をもらったから労働になるのかなど、はっきりしてはいません。利用者ご自身の状況によっては、労働が認められるケースもありますので、必ず移行や自治体に相談してみることです。
就労定着支援
移行の役割というのは、就職するための支援でありますが、2018年4月から就労している人の長期継続を目的とした、福祉サービスである就労定着支援が開始され、多くの移行がこの就労定着支援も行っております。
就労定着支援とは、利用者が就職したものの職場での困りごとによって退職してしまうようなことがないように、困りごとを取り除いてくれるサービスです。
雇用する側も、この定着支援員のついている応募者であれば安心して雇用できると考えているケースもあります。
ボランティアではない
移行や移行の職員は、ボランティアで訓練生である利用者の支援をしているのではなく、無料で利用できても移行に収入はきちんとあります。
障害者である利用者が移行を利用した場合、世の中の皆さんの税金が移行の収入になります。実際は、移行に通所するならば利用者が国からお金をもらって、そのお金を移行に支払う流れですが、簡略化するために、国から直接、移行に流れるシステムになっています。
民間企業が運営する移行が多くあり民間企業である以上、利益を求める団体であるのです。
仕事の斡旋はしていない
移行に通所しても仕事の斡旋はないので、仕事探しにおいては、基本的に実習か、ハローワークの求人に応募するか、移行の独自求人に応募するか、系列の障害者転職エージェントを利用するかになってきます。
移行ホッパー
移行を通所する際は、自分が何故移行を必要としているのか、なぜ数ある以降の中で、その移行を選んだのかをよく考えることが必要で、ジョブホッパーならぬ移行を転々とする移行ホッパーとなっては貴重な時間を無駄に過ごすだけです。
頼りきりにならない
そして、移行の収入というのが、利用者が通所することによって国からお金が流れ込むシステムなので、よろしくない移行では無意味に利用者に長期間利用させるところもありますし、その反面、移行の実績を作るために、訓練をしたい利用者に対して就職を急かす移行も存在します。
最後に、移行に通えば移行がなんでもしてくれるスタンスではなく、移行はあなたの就活をサポートする場と考えて利用することです。
そもそも移行とは
ただし、ここで勘違いをしている人も多数いるのではないかと思います。実際に移行に通所しても意味がない、時間の無駄だったなどの声も聞きますが、そもそも移行というのは就職がゴールではなく長期継続就労を最終目的とした訓練を行う場なのです。
例えば、第三者である移行のスタッフから見て、この利用者はまだ生活が整っておらず就職しても長続きできないであろうと判断すれば、時間をかけてでも働く上での土台となる生活リズムの安定を築くことを訓練とします。
また、保有資格が十分などで職業に対しての適性があっても、人間関係やコミュニケーションが苦手で就職を失敗してしまった人ならば、今度は長続きできるような訓練をします。移行を早期に退所してしまう人や移行に不満がある人は、この理解が不足している可能性もあります。
多くの移行がある
2020年において、移行の数は2,529事業所であり、利用者数は28,637人です。2018年の事業所数3,503箇所、利用者数35,442人と下がってはいるものの、その数は決して低いものではありません。
このように多くの移行がある中で、自分の目的に合った訓練をしてくれる移行に通所し、長期継続就労を目指すことです。
そして、移行を利用でき期間が人生で2年と決められている人にとっては、この2年間は非常に貴重な2年間になります。移行に通所するならば、移行通所中の生活費のことも含めて、途中で移行を辞めてしまわず最後まで通所する覚悟を持つことが大切です。
まとめ
- 移行や就労移行と呼ばれる、就労移行支援事業所とうサービスがあります。
- 移行は障害者などが通所する、就活・就労の塾といったところです。
- 移行を途中で辞めることなく、就職と長期継続就労を目指すことです。